2025年12月頃、当オンラインマガジンのオープン準備中、企画段階で周囲のかたたちへご相談差し上げていた際
「『ペットは物言うパートナー』というタイトルで、犬や猫との同居、その繊細さと楽しさ美しさ、保護活動についてなども含めて記事にしたい」
というわたしの案に対し「いいね」「読みたいし書きたい」と、ご意見を頂戴しておりました。
筆者自身子どものころから小鳥、犬、うさぎなどのペットを飼ってきた経験を持ち、特に犬に関しては
「保健所へ連れていかれそうになっていた柴犬を実家で迎え入れた」
「ペットショップから迎え入れたマルチーズが全盲で脚も不自由だったけど、楽しく命を生ききることができた」
という、ごく私的な記憶が出発点の企画。
しかし、いざ記事にしようとすると、どの切り口で書き始めるか迷い、着手できずにおりました。
時間は少し進み2026年5月、小田急線・祖師ヶ谷大蔵駅徒歩1分の場所、わたしにとって懐かしい「とんかつ鈴の家」「カラオケトマトクラブ」前の路地、カレー好きさんにとっては「スリマンガラム」前の路地を筆者が歩いていたところ、
「Maison PHOTOGRAPHICA」という、たくさんの猫グッズと美しい写真集を販売する路面店、そしてその店主である写真家・金森玲奈さんと偶然出会いました。
2026年7月3日から16日まで「フーとムー」というタイトルの作品展を、ソニーイメージングギャラリー銀座にて開催するとのこと。
ぜひ取材させてくださいと当方よりお願い申し上げまして
猫のこと、写真のこと、お店のことなど、たくさんお話をうかがうことができました。
作品展の写真に登場する猫たちは、タイトルがしめす通り「フー」と「ムー」。
フーは2014年の冬、大雪の中右手に大怪我をおった状態で金森さんに保護された猫「フック」。フックが「フー」と呼ばれるようになりました。
フーは獣医さんから「安楽死か右手切断か」と決断を迫られ、金森さんの「生きていて欲しい」という思いにより、右手は失いましたが回復したハチワレの男の子。
ムーは2015年の春、金森さん夫妻が路上に倒れているのを見つけ保護された猫「ムギ」。ムギが「ムー」と呼ばれるようになりました。
ムーは保護した後に耳が聴こえないことが分かったそうです。
フーとムーは金森さんのお宅でとてもなかよしになりました。
金森玲奈さん(以下金森さん)
「夫が海外出張中にフーを保護しまして。飼うと決めてから、帰国した夫へ『猫、飼うことにしたから』と事後報告しました(笑)。
夫も驚きながらも賛成してくれて。
当時は猫を飼えない家に住んでいたのですが、いったん実家へフーを預けつつ、猫を飼うことができる家を探し引っ越しました。
なんとかなると思って行動、そうするとやっぱり、なんとかなりますね(笑顔)」
フーとの出会いがきっかけで発揮された行動力!
フーとの生活を始めた7か月後、ご自宅近所を歩いていた金森さん夫妻の前で倒れ保護された、耳の障害を持つムーが合流。
金森さん
「うちの近所は割とのどかなほうで地域猫にご飯をあげる人の存在も知っていたので、はじめは去勢手術だけして外に放そうと思っていました。
でも、耳が聴こえないこと、そして、うちで過ごすうちにフーとムーがとてもなかよくなったということが決め手で、我が家に迎え入れることになりました」
ペットとの生活は、「ひょんなことから」始まることも多いですよね。
出会いたいと思っても、なかなか出会えないものですが
お話をうかがっていて、金森さんはフ―とムーから選ばれたのだな、と、筆者は感じました。
保護して命を助けるということはもちろんのこと、家族になることを決め、いのちの責任を考え自宅を引っ越し、なかよくなったフーとムーの「2匹一緒に」をかなえ、人間の夫婦2人と猫2匹で幸せな家庭を築く。
フーとムーから選ばれし金森さんご夫妻。
やっぱり、猫は物言うパートナーだ。しかも繊細で愛らしい物言いだ。
そしてそもそも金森さんは、フーとムーとの出会いのそのかなり前、学生時代より現在まで、ライフワークとして猫の写真を撮り続けてきたひと。もともと猫の作品をたくさん発表している写真家なのです。
フーとムー、そういうこともお見通しで金森さんを選んだのかも……
金森さん
「学生時代、歌舞伎町など、都会で生きる猫を撮影していた時期がありました。
その中で、ガリガリに痩せた猫の写真を展示したことがあって、私としては外の厳しい環境で生きる猫の現実を知ってもらいたいと思っていたのですが、その写真を見て『可愛い~♡』とおっしゃるかたに出会いまして。
猫=可愛いと思いこんでいるからこその発言なのか、命あるものすべてどんな状況でも可愛いという意味なのか……わたしが提示したメッセージとは違う反応の『可愛い』がかえってきて衝撃を受けました。
この経験から自分の考えを押し付けるのではなく、自分の信念は持ちつつ、その先は見た人に委ねるというスタンスを持てるようになりました」
街の猫、家の猫
それぞれの存在を見つめ、感じ、向き合って撮影し記録し、
そして、その猫たちを見る人間の視線や価値観とも出会い、思い、向き合ってきた金森さん。
正解などない、わたしたちの生活、そしてこの街。
そしてさらりとこんなこともおっしゃるのです。
金森さん
「数年前、動物の保護団体や保護猫カフェなど、寄付やカフェ利用料などを運営費に充てているところがコロナ禍で運営が厳しいという記事を目にしまして。
仕事でお世話になった保護猫カフェを応援したいという想いから、当時池尻大橋にあったアトリエでチャリティーの写真展を開催するようになりました。
猫だけでなく、犬好きな人のお力もお借りしたいと『イヌネコLovers』というタイトルに決めました。
当時はコロナで仕事もなかったので半年に1回ぐらい開催して、参加者さんのペットにまつわる写真を展示したり、犬猫モチーフの手作り作家さんの作品で物販にチャレンジしたりして。
2023年に池尻のアトリエを閉めたので翌年は自宅最寄りの祖師ヶ谷大蔵にある動物好きなオーナーが運営している「ギャラリーパウパッド」さんで開催しました。
その片づけへ行く途中に、現在『Maison PHOTOGRAPHICA』のアトリエ兼店舗として借りている物件と偶然出会ったんです。
猫との出会いきっかけで引越しをしたり、
犬猫保護団体チャリティー活動きっかけでアトリエとして希望通りの物件と出会ったり、チャリティー展で行っていた猫グッズ販売を発展させた形のお店を始めたり、
いつも猫たちが、わたしの人生に新たなご縁と展開を運んできてくれるんですよ」
招き猫?
……と思っちゃいますが、幸運を招いているのはきっと金森さんご自身。
ねこたちの愛すべき物言いを聞いてあげて支援し、ご縁を引き寄せているのも、金森さんご自身なのですよね。
今回展示の「フーとムー」
フーは、2023年7月7日に9年ほどの命を終えました。その際金森さんは半年ほど仕事をセーブし、自宅で看取ったそうです。
20年ほど生きる猫も多い中9年という時間の命を終え、いなくなってしまったフー。
今回の展示は、9年分撮りためた記録の、膨大なデータを改めて見て整理し選び……という作業を経て実現しました。
金森さん
「(ご自身の腿の上に丸く手をかざして)ここにいたのに、いないというのは、別れから数年たった今も寂しいなあと思いますね。もっと長く生きてくれると思っていたので、9年という寿命が、とても短く突然の別れに感じて……今も胸にぽっかりと穴があいている感じ。ムーも寂しいのか、甘えん坊度が増してきているみたい。
でも、別れはとてもつらくても、動物を家族に迎えることはやっぱり幸せなことだなあと思います。
最近やっと、9年分の写真を見ることができるようになりました。
『あ、これ覚えてない』『そうそう、覚えてる』
なんて、ひとつひとつ、すべて見て確認し、整理したんです。
わたし自身の気持ちも写真とともにひとつずつ少しずつ、整理されました。
今回はその中でも元気な頃の二匹の姿を見てもらいたいと思っています」
まさに喪の作業と言える「写真の整理」。
その話題の中で金森さんから
「写真は記録」
「写真はやはり紙で残すことが大切だと思う」
という言葉をうかがい、写真にまつわる「記録と記憶」の話題になりました。
金森さん
「東日本大震災のときに、被災した方たちのアルバム洗浄ボランティアに参加したことがあります。
データは壊れると復元できないけれど、紙に焼き付けられた写真は、像の大半が失われている状態だったとしても『モノ』としてそこに存在するだけで救いになるのかもしれないと強く思わされる体験でした。
写真を紙で、形として残すことはとても大切で意味があることだと感じますし、
そしてやっぱり『写真は記録』です。
亡くなった方と残された方をつなぐ写真が1枚でも手元にあれば、残された人にとってそれは、とても大切なもの、大切な思い出が形になった特別な『1枚』になると思います」
筆者
「共感します。わたくしごとながら、ここ数年両親を相次いで亡くし、その遺品整理のとき
『昭和の時代に住んでいた家の庭で、父が幼いわたしを抱いて被写体になり母がシャッターを切った、なんでもない日に普段着の家族の時間を切り取った1枚の写真』
を見たんです。
その写真の、写っていないけれど写す側で、おそらく笑顔でシャッターを押した母の存在と、写っている側の若い父と幼い娘であるわたしの笑顔。
『記録』『モノ』としての写真1枚から、言葉で言い表すことができない、わたしにとってとても重要で大切なものを受け取ることが出来、大げさでなく
『この1枚さえあれば、わたしこのあとの人生、何があっても幸せに生きてゆける』
と思いました」
金森さん
「そうなんです。写真には、そういうちからがあると思います」
いつも誰かが話しかけてくれる祖師ヶ谷大蔵の商店街(筆者も以前住んでいた際はよく話しかけてもらっていました)。路地に面した建物の1階にある金森さんのアトリエも
「ここなんのお店?」
と、通りすがりのひとたちから何百回もたずねられ話しかけてもらったことから、お店としての営業も開始したそう。
東京都世田谷区祖師谷3-32-12 の路面店
「Maison PHOTOGRAPHICA」。
金森さんが買い付けた猫のグッズ、金森さんの写真集、写真を使ったグッズやTシャツなども販売されています。もちろん、写真のワークショップや、大切な思い出を形に残すプリントサービスもこのお店で行っていますよ。
お店の中には金森さんチョイスのたくさんの猫グッズ
金森さんの写真を使用したアイテム
金森さん
「商店街にも参加させていただいていて、先日も祖師ヶ谷大蔵駅前のマルシェで、たくさんのお客様にお店を知ってもらうことができました」
と、笑顔で語ってくださいました。
ご自身の好きなもの(猫グッズ)とご自身の専門技術(写真)で、地域に根付いたお店を営業……筆者がいま本気で憧れているお仕事のやりかた! いいなあ。
祖師ヶ谷大蔵周辺の「保護猫ネットワーク」や「ローカル猫情報」と、犬猫との出会いについてなどをお話ししつつ、なごやかに取材が終了しました(金森さん、長々と居座りお話ししてしまいごめんなさい)。
ペットとの同居、生きること、出会いと別れ、写真が持つちから。
別れはつらいけれど、きっとまた、別の出会いもやってくる。
さまざまな感情を味わうことができた今回の取材。
読者の皆さまも、もしもご興味を持っていただいたら、
写真展、そしてお店にて、金森さんとフーとムーに出会ってみてくださいね。
作品展「フーとムー」
2026年7月3日(金)~7月16日(木) 11時~19時 会期中無休
ソニーイメージングギャラリー銀座
東京都中央区銀座5-8-1 銀座プレイス6階
東京メトロ銀座線A4出口直結
https://www.sony.jp/camera/imaging-gallery
写真家 金森玲奈さん
note https://note.com/kanamorireina
Instagram https://www.instagram.com/kanamorireina